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カポックを着る。深井喜翔が考える人類の未来。

カポックを着る。深井喜翔が考える人類の未来。

二階堂ふみさんがディレクションし、モデルも務めたことで注目を浴びたファッションブランド、『KAPOK KNOT(カポックノット)』。扱いが難しく、多くの会社が挫折した「カポック」は、サステナブルの秘蔵っ子。世界で初めてカポックをシートにして商品化に漕ぎ着けたド根性ブランド誕生の山あり谷ありのストーリーをお届けします。

繊維が短くて使えなかったカポック。

東南アジアのインドネシアを旅していると時々見かけるフワフワ。風に乗ってのんびりと空気中に漂っています。捕まえようとすると、するりと逃げる。一体なんだろう、と思った人も多いのではないでしょうか。

昔からあったこの謎のフワフワを、幾多の困難を乗り越え、服にした人がいます。双葉商事の深井喜翔さんです。

このフワフワは、カポックという名前の木が自分の種を遠くまで飛ばすための綿毛です。日本では子どもたちが吹いて遊ぶタンポポの綿毛がよく知られていますが、カポックは大きな木にぶらぶら成る木の実が、ある日熟してパカっと割れて、空気中にフワフワ飛び立っていきます。このフワフワを捕まえようと追いかけた子どもたちも多いのではないでしょうか。

なんとかカポックを着られるようにできないものか。


植樹をする深井喜翔さん

おとぎばなしのキャラクターのような優雅なフワフワ。大きな木にいっぱい実るので、いっぱい採れるし、捕まえるのもカンタンなカポックの綿毛ですが、これまで現地ではクッションや布団や救命胴衣の詰め物、海に流れ出た油を捕まえるオイルキャッチャーとして利用されるだけでした。なぜ服に使われなかったのかと素朴な疑問がわきますが、カポックが採れるのは暑い国。需要もないし、繊維は短いし、糸にするのも難しい。仮に糸にできたとしても繊維が短いので洗濯すると抜け落ちてしまう。そんな理由から、これまでの世界のアパレル産業のなかで使われてはいませんでした。


フワフワのカポックコットン。種を遠くまで飛ばすため軽くて中空。

カポックの綿毛は空に種を飛ばすためにできているのでとても軽く、私たちが服に使っているコットンの8分の1の重さです。見た目は綿なのになぜそんなに軽いのかというと、70〜80%の天然の中空構造になっているからです。この「70〜80%の天然の中空構造」に注目したのが深井喜翔さんでした。

慶應義塾大学環境情報学部で当たり前のようにソーシャルビジネスを学び、卒業後、大手繊維会社の営業を経て、曽祖父が1947年に創業した双葉商事に入社し、アパレル業界の大量生産、大量消費のシステムに衝撃を受け、業界全体を少しでもエコシフトしたいともがき試行錯誤している最中でした。

70〜80%の天然の中空構造、という天の恵み。


収穫後のカポック

「70〜80%の天然の中空構造」ということは、ひとが着ると、その湿気を吸って体温を保全して暖かくなる吸湿保温性があり、乾燥した冬には快適です。さらにカポックの綿毛には水を弾きやすく、水溶性の汚れに強く、濡れても乾きやすいという特性もあり、暑い時には逆に湿気を放出するために、着ているひとはサラサラと、これまた夏でも快適です。(現在夏服の商品を開発中)。

こんな優れた特性があるのに布団やクッションや救命胴衣の詰め物だけでは勿体ない。

薄いのに、ダウンの暖かさに匹敵。


*3℃の環境の中、着てから1分後の状態。左:従来の薄手コート (約850g)。中:B社のダウン。
右:カポックノットのコート (約850g)。

さらに調べてみると、カポックは薄手なのに、厚くかさばるダウン(水鳥の羽毛)と同じくらいの保温性があることがわかりました。モコモコにならなくても、暖かい冬が過ごせる。やせ我慢しなくても、スマートに冬を越せる。ファッションの面でも、機能や便利さを考えてみても、日本の冬にぴったり。このサーモグラフィは、一般的な薄手のコートと、モコモコしたダウンと、カポックで作ったコートを比較したものです。薄手のコートと同じ850gという重さと薄さでありながら、ダウンの暖かさにも負けていないことがわかります。

A:左:従来の薄手コート – 約850g
B:中:B社のダウン
C:右:カポックノットのコート – 約850g

カポックのコートができてよかった〜。30羽の水鳥の声が聞こえる。

多くの高級な羽毛製品は、生きている水鳥を捕まえて手でむしる「ライブハンドピック」で作られています。ちょっと残酷な話ですが、ダウンを採るとき、人間が水鳥を掴んでその翼や首を足の間に挟んで動けないようにし、水鳥の胸やお腹に生えているダウン(羽の間に生えている短いフワフワの毛)をむしり取ります。命を取らないからといって、問題がないわけではありません。このやり方は、水鳥に恐怖や痛みを与え、その命や福祉や生きる権利、動物福祉(アニマルウェルフェア)を損なっています。私たちは、高級ダウンの生産現場を知ることで、今一度考え直さないといけない時期に来ています。持続可能な社会の目標であるSDGsには動物福祉も含まれているからです。

カポックを使ったコート一着は、約30羽の水鳥のダウンを使ったダウンコートとほぼ同じ暖かさです。つまり一着のカポックのコートを買う、ということは、30羽の水鳥がむしられず痛い思いをしなくてすむ、ということです。よかった〜という水鳥の喜びの声が聞こえてきそうです。

肥料も農薬もいらない。自生する南の国の恵みの繊維。


世界初。カポックをシートに加工。

カポックは樹齢100年を超えても生きられる長寿の木です。たった2年で10m以上の高さになることもあります。たくさんの肥料が必要な農作物と違い、肥料や水をやらなくても自然環境の中で自生し、実をたくさんつける環境に適した強い木です。5年目ぐらいから実がなり始め、およそ50年に渡って収穫が続けられます。カポックは自然のまま、オーガニックなまま、人間にもたらされる恵みの繊維なのです。実を収穫する際に、木を切る必要もありません。カポックで服が作れれば、従来の素材よりも自然環境へのダメージ、フットプリント、環境負荷がとても少なくてすみます。

カポックの服が普及すれば、地球への負担が少なく、人々を暖めることができる。動物福祉にも貢献できる。アパレル業界の明るい未来を感じた深井さんは、一念発起して、大きく人生を賭け始めました。

最初は現地視察を断られたり、なかなか企業の協力が得られなかったりと大変な苦労を経て、ついにカポック繊維をシート状に加工した「エシカルダウンカポック®️」の製品化に成功しました。カポックコットンを採っている現地の農場にも行って契約もしました。

前例がない。わかってもらえない。こんなにサステナブルなのに。

それでも、こんなにサステナブルで画期的な素材なのに前例がないと言われ、初めは採用してくれる企業がなかなか増えませんでした。そこで自分でブランドを立ち上げるため、クラウドファンディングで1700万円を調達し、「KAPOK JAPAN」を設立し、ブランドは「KAPOK KNOT(カポックノット)」と名付けました。「KNOT(ノット)」は「結び目」、ロゴマークは「末長く」を意味する水引をモチーフにして、作りました。

動物愛護(アニマルウェルフェア)でも人を繋げるカポック


ロゴは水引の結び目がモチーフになっています。

ダウンを使わずに、カポックを使ってコートを作り、売り上げの一部を寄付することで、動物愛護(アニマルウェルフェア)活動にも貢献しています。

夢は世界のアパレル産業を持続可能にすること。KAPOK JAPAN(カポックジャパン)代表の深井喜翔さんは今日もその道を踏みしめ、歩き続けています。

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