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100年後の未来に残したい、着物文化にみる温故知新

100年後の未来に残したい、着物文化にみる温故知新

着物の季刊誌「七緒」編集長の鈴木康子さんとIMA代表/あうんエシカル百科店スーパーバイザーの水野誠一さんの対談、後編です。

常識に捉われず、新しさを知ること

ーー現代の日本において着物文化が身近なものではなくなってきている一方で、世界では日本文化としての着物が注目されていることについて、お二人はどう感じていますか?

鈴木:先日、カナダ人のアーロン・ベンジャミンさんと着物研究家のシーラ・クリフさんに取材でお話を聞く機会がありました。アーロンさんはコレクションしている着物の反物を用いてオーダーメイドの衣服を作る、サステイナブルなラグジュアリーファッションブランド「Ichijiku」を立ち上げた方なんですが、生み出すスーツが本当に素晴らしいんです。彼は「着物は世界で一番美しい布だ」と心から感じているそうです。着物を単に洋服に変えるのではなく、視点をスイッチさせることによって、そこに美しさが宿るのだとシーラさんとも話をしました。


アーロン・ベンジャミンさんが手がける「Icjijiku」のオーダーメイドスーツ。最高品質のアンティーク着物から、ユニークなオーダーメイドのアパレルやアクセサリーを製作している。

水野:日本人は常識に縛られがちかもしれませんね。正装には染めの着物でないといけないとか、成人式では華やかな着物じゃないといけないとか。そんな常識を、一つずつ変えていかなければならないと思っています。着物を洋服感覚で着るだけでも、着物を着たいと思う人が増えると思うんです。


IMA代表/すみだ地域ブランド推進協議会理事長 水野誠一さん。かつて西武百貨店社長として時代をリードする様々なライフスタイルを提案してきた水野さんと行政がタッグを組んだことが、ものづくりのまちに大きな変化を生み出すきっかけとなりました。「あうん(a・un)エシカル百科店」ではスーパーバイザーを務めています。

水野:私は温故知新という言葉が好きです。歴史を学んだ上で、作る側には新たな挑戦をして欲しいし、着る人にはもっと自由な着方をして欲しい。今こそ学び、未来を築かなければ、着物文化は終わってしまうでしょう。

鈴木:温故知新で言えば、着物の業界は温故に注目しがち。もう少し新しさを知り、発見することに挑戦してもいいのかもしれませんね。

着物文化をたずねて、未来を知る

ーー100年後の未来に着物文化を残していくためには、何が必要だと考えますか?

鈴木:私が今できることは、着物は高価で敷居が高く、特別なものという先入観がある中で、日本人は昔から着物を普段着として着用していて、高価でも遠い存在でもないことを広く認識してもらうことだと思っています。他に、何か指し示せるものはあるでしょうか?


着物からはじまる暮らしを提案する季刊誌「七緒(ななお)」編集長 鈴木康子さん。早稲田大学卒業後、プレジデント社入社。食のエンターテインメント誌「dancyu(ダンチュウ)」編集部にて、約100冊の月刊誌やdacyu別冊の発刊に携わる。食と器への興味からはじめた茶道の稽古で着物に出会い、熱が高じて2004年に「七緒」を同社にて創刊。以降、編集長を務める。

水野:親が残してくれた着物を買取業者に引き取ってもらう際、素材の良し悪しや価値が考慮されないことがあるそうです。その後の活用が見えない場合は、自分で活用する方法を模索することも一つの解決策だと思います。僕自身も、できる範囲でお直しやリメイクをしていきたいと思っています。そんな風に、クリエイティブな気持ちで着物を楽しんで欲しいですね。

鈴木:着物を受け身で着るのではなく、もっと能動的に、つまりクリエイティブに、自分で考えて着ることが重要かもしれませんね。そういう意味では、先ほど水野さんがお話しになった、袴を着るスタイルも可能性があると感じました。今はロングプリーツスカートやワイドパンツが増えてきていますが、着物の上から履けばそのまま袴にも見えそう。洋服のフォルムが着物に近づいている部分があるので、ボーダレスに行き来することも可能になるのかなと思います。

水野:昔、武士は袴で生活して戦っていたわけだから、袴も一つのアプローチかもしれませんね。

鈴木:着物は、織や染色の技術、包む・結ぶといった文化、マナーなど、様々な要素で構成されています。変化するものと変化しないものが同居している中で、どういう形であれば、着物が存続していると捉えられるとお考えですか?

水野:“人間が暮らすための衣服”としての着物という、一番根源的な部分は変わらないべきだと思います。着物は本来、楽に着られないと人間としての営みができないわけです。ですから、着物が衰退してしまわないようにするためには、着心地が良く、生活に困らない着物の姿を模索していく必要があると思います。

鈴木:自分らしさを表現する手段や、立ち返れる場所として、着物が繋がっていくといいですね。そのためには、身近だったり、素直にかっこいいと感じるような着物のビジュアルが必要かもしれません。

水野:僕は、そこに一番近い距離にいるのが「七緒」だと思っています。美しい作品としての着物は多くのメディアで取り上げられていますが、やはり“暮らしの中での着物”という視点が必要だと思いますね。

​藤井由香里 Yukari Fujii

京都出身、都内在住。環境問題や日本の文化、ものづくりの背景に興味関心を持つ。 現在は、フリーライター・エディターとして多岐にわたる分野で取材・執筆・編集を行う。
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