日本ワインの故郷で地域を想う新生ワイン村
2024.04.20
国産のブドウを使って国内でつくられる日本ワインの人気が高まっています。国内のワイナリーが400件を超える中、令和元年にワイン県を宣言したのは、90軒以上のワイナリーを有する山梨県。県の真ん中に近い甲州市、勝沼町は日本ワイン発祥の地と呼ばれる地であり、いくつものワイナリーを歩いてめぐることのできる、全国でもめずらしい地域です。
すでにワイナリーが集合している地域に、新たなワイン村が築かれつつあります。そこにあるのは、勝沼であっても増え続ける耕作放棄地をどうにかしたいという想い、地域に受け継がれてきたワインづくりへの情熱、次代に勝沼のワイン文化を引き継ぎたいという気持ちなどです。
小さなワイナリーが助け合って躍進
地域を流れる日川(ひかわ)のほとりに、小さなワイナリーが集う勝沼ワイン村。勝沼ぶどう郷駅からはタクシーで7、8分ほど、徒歩で30分程度なので、散歩好きな人なら多少のアップダウンがある道を、ぶどう畑を見たり、他のワイナリーを見学しながら歩くのも楽しいでしょう。周辺にはシャトー・メルシャンをはじめ、勝沼ワインとして歴史のあるワイナリーが数多くあります。
勝沼ワイン村の立ち上げを呼びかけたのは、オーナーたちが定年退職後に勝沼の地でワイナリーを始めた「東夢ワイナリー」。ワイナリーをはじめたい人々を募り、みんなで協力してワイン村という形態を立ち上げ、現在進行中でさまざまなプロジェクトを進めています。それにしても、すでにワイナリーの密集地である勝沼に、なぜ今新たにワイン村を築くのか。
今、日本のワイナリーは増え続けています。マイクロワイナリーと呼ばれる小さなワイナリーも全国的に増えています。理由のひとつとして、個人などの小資本でも参入しやすいよう、酒税法の最低製造数量が緩和するワイン特区という制度の広がりがあります。
けれどすでにワイナリーが多数ある勝沼では地域でワイン特区の申請を通すのが難しい。そこで、それぞれが小さくてもワイナリー同士が協力しあうことで運営していくための共同体をつくるべく立ち上がったのが、ワイン村プロジェクトです。
さまざまなバックグラウンドのつくり手たち
勝沼ワイン村には、現在9つのワイナリーと煎茶専門店、総合棟と呼ばれるセレクトショップ「CELEBRIDGE(セレブリッジ)」、宿泊できるコテージ&テントサイトなどがあります。
退職後にUターンして、耕作放棄地でのぶどう栽培からスタートし、家族で協力しあってワインを醸造するワイナリー。障害のある人たちと共に農地を再生し、植えたぶどうからナチュラルワインをつくるワイナリー。富士五湖のひとつ、河口湖畔のリゾートホテルが運営し、スタッフ自ら栽培、収穫したぶどうで醸造したワインでゲストをもてなすワイナリー。
どのワイナリーの人たちも、毎日畑で作業をし、ぶどうが実ればワインを醸造しています。予約なしにふらっと訪れたら誰もいないワイナリーや、ワイナリーの入り口に「畑に行っています。御用の方はご連絡ください」などという貼り紙があるワイナリーも。たまたまスタッフがいる場合、ワインの説明を聞いたり、試飲ができたりする場合もあります。セレブリッジは原則的に火曜、水曜、特別休業以外の11時から16時までオープンで、ワイン村のワイナリーを試飲・購入することができます。
農地再生とワイン文化の伝承を目指して
日川の流れの音が聞こえるワイナリー村の中央は広場のようなスペースになっています。毎月第1土曜日には「Cill Time」が開催され、8つのワイナリーを開放。普段はなかなか集まれないワイナリーのオーナーたちに出会える場としています。キッチンカーも来て、各種ワークショップや季節ごとのイベントなども行っていくそうです。
気になるワイナリーのオーナーとおしゃべりしたり、好きなワインとつまみを買って、日川のほとりや中央広場でのんびりチルな時間を過ごしたりしたいですね。オープンなイベントで細かなしばりはないので、ピクニック気分でお弁当や好きな食べものを持ち込むのもOK。小さなお子さんが一緒でも大丈夫です。
もちろん、ワインのことは全然わからないという人も大歓迎とのこと。こんなこと聞いてもいいのかな?なんて気にせずに、ワイナリーの人たちになんでも質問してみてください。
それぞれの想いや志がある人々が、東夢ワイナリーや勝沼の地とつながったことから集い、共に歩むワイン村。ぶどうの名産地、ワインの故郷である勝沼であっても増え続ける耕作放棄地を少しずつでもよみがえらせたい。自然環境を守りたい。普段の食事とともに、地産地消のワイン飲み続けてきた勝沼独自の文化、山梨の地域性を大切に受け継いでいきたい。国内外で通用するワインづくりを追求していきたいという気持ちがあふれています。
決まった形はなく、共にある想いのもとにみんなでつくりあげていく、いつでも進化系の共同体。その試みはワインだけでなく、勝沼という場所に限らず、さまざまな形で広まりつつあるもの、この先もっと拡がりつながっていくでしょう。