“明日を晴れにする”CLOUDYの挑戦
2023.07.20
ハイブランドが軒を連ねる東京・渋谷の複合施設「RAYARD MIYASHITA PARK」。国内外からたくさんの人が訪れる華やかな場所に、アパレルブランド「CLOUDY」の店舗はあります。
色鮮やかで心弾むファッションアイテムは、紛争から逃れて難民キャンプで暮らしていたり、生活苦の困難や障害などを抱えながら懸命に生きるアフリカの女性たちの手から紡がれたもの。“曇りの日もきちんと楽しんで生きる”というコンセプトに由来するブランド名からも、彼女たちへの思いが伝わってきます。
そんな温かなブランドを手がけるのは銅冶勇人さん。世界有数の金融大手を辞して、全く無縁だったファッション業界に飛び込みました。自ら起業してまでアフリカと伴奏し続ける銅冶さんに「CLOUDY」へ込めた想いを伺いました。
様々な問題を抱えて生きるのは日本もアフリカも同じ
銅冶さん「どんな人も晴れ晴れとした日ばかりでなく、どっちつかずで曇り空みたいな日がありますよね。それは、僕が大学の卒業旅行でたまたま訪れたアフリカの人も同じです。親がいなかったり、生まれたときからの障害があったり、学校に通えなかったりと、いろんな事情を抱えているけれど、そうした一人ひとりの日常が晴れになるブランドにしたい…そんな願いを込めて『CLOUDY』と名付けました。名前はすごく大事だと思ったので、決めるまでに1年も悩みましたよ(笑)。CLOUDYという言葉が浮かんだとき、自分の気持ちも晴れた気がしましたね」
起業する前からNPOとして熱心にアフリカ支援に携わってきた銅冶さんですが、初めてかの地に訪れたときは、ほとんど何も知らなかったといいます。先入観のない、まっさらな眼に飛び込んできた現実は衝撃的で大いに心を動かされたそうです。
銅冶さん「大学4年生の時、もう2度と行かない場所へ旅しようと思い、アフリカを選びました。よく見ていたテレビ番組の影響で、ケニアのマサイ族の人たちに会ってみたくなったんです。当時の僕は、空港を降りたらすぐに野生の動物がいるのかなとか、服を着ている人はどれくらいいるんだろう…と、いま思うと恥ずかしくなるほどアフリカのイメージはひどいものでした。ですから、これほどまでに密接に関わるとは思いもしませんでした。
初めて見るアフリカは、想像以上に発展している場所がある一方、ケニアのスラムのような場所もあり、その衝撃は大きなものでした。あの光景を目の当たりにして、『何か一緒にこの人たちを作っていきたい』という想いが沸き上がったのを覚えています。『CLOUDY』につながっていく大事なきっかけであり、強い覚悟が芽生えた瞬間でしたね」
従来の支援ではこぼれ落ちてしまうものがある
卒業後、大手金融企業で多忙な毎日を送りながら、余暇のほとんどをNPO活動に費やしてきたという銅冶さん。アフリカのリアルに触れるほど、NPOと別のアプローチの必要性を強く感じ、2015年の起業に至りました。この回り道にも見える数々の経験は、今の自分を支える力になっているといいます。
銅冶さん「アフリカとの関わりが深まるにつれ、様々な団体の支援が継続的でないことに気づきました。学校を建てるのはすごく良いことですが、運営に行き詰まって廃校になるケースも少なくないですし、感染予防や性教育の一環で配られたコンドームは、ほぼ捨てられているありさま。多くの先進国が注いでいる労力や時間、お金は小さくないのに、本質を捉えた解決方法になっていない。また、アフリカを支援しようと服や食糧などの物資を支援することは素敵なアクションですが、それによって現地で仕事を奪われてしまう人がいることも目の当たりにしました。
こうした従来型の支援では救い切れない部分があると感じました。僕は当時、いわゆるグローバル経済の中で格闘していましたから、経済発展は表層的なもので、ほとんどの人はその恩恵にあずかれないという矛盾を人一倍感じていたのかもしれません。
また、NPOの活動を続けるうちに、『継続的な支援とはなにか』『本当の支援とはどういうものか』を考えさせられました。たとえば、僕らの学校を卒業した女性が、セックスワーカーに就いていると知りました。なぜそうした行動をとるのか、彼女たちにヒアリングをしてみると「大学に通いたい」「店を持ちたい」「家族を養いたい」といった明快な答えが返ってきました。ジェンダー格差を突き付けられた思いがしてショックでしたし、社会的に弱い立場である女性や、障害者がすぐに就ける仕事を作ることが最優先で進めるべきだなと痛感したのです。その想いが『CLOUDY』の大きな原動力になりました」
ブランドの立ち上げ コンセプトは”アフリカの下駄を脱ぐ
フェアトレードな製品を扱い、売り上げの10パーセントを現地に還元することを社是とする「CLOUDY」。それにより、これまでに約3000名の子どもたちに教育の機会をつくり、約620名の障害者や女性たちが働く機会を得ています。これほどまでにアフリカが抱える様々な問題と真摯に取り組みながらも、ショップや製品からは、そうした支援の影はあまり感じられません。実際、渋谷の店舗にはアフリカを支援する様子を知らせる展示は一切なく、1つのファッショナブルなブランドとして周囲になじんでいます。それこそが、「CLOUDY」のこだわりなのだと銅冶さんは胸を張ります。
銅冶さん「アフリカで雇用を作りたいと思ったとき、どうすればアフリカのすばらしさを表現し、そこに暮らす人たちを尊重できるだろうかをすごく考えました。そして導き出した答えの1つが、 “アフリカの下駄を脱ぐ”ということでした。
僕らの事業はアフリカ抜きで語れませんから、そうした話を始めた途端、ほとんどの方が『すごいですね』『素晴らしいですね』とほめてくださいます。でも、僕らとしては『まだ、何も話してない』『製品を見ていただいていない』と感じることも多くて。アフリカへの支援を前面に押し出せば、一時的に注目していただけるかもしれませんが、それだけでは持続は難しい。支援と切り離したところで、『すてき』『かわいい』と、思わず手に取りたくなるプロダクトにすることが大事なのです。なぜなら、ソーシャルインパクトに対してアクションを起こしたいと考える方はまだまだ少数派です。いまはまだ無自覚な方々にも、ファンになっていただけるブランドとして成長しビジネスで成功することが、結果的に大きな支援に繋がっていくのです」
それぞれの文化や想いを尊重したCLOUDY独自のデザイン
デザインでは、多くの人に響くかわいらしさやかっこよさといった要素と、アフリカならではの魅力を違和感なく融合させることに心を砕いているといいます。
銅冶さん「デザインを現地のワーカーたちと一緒に作っていくことが、『CLOUDY』の大きな特徴のひとつ。そうすることで現地の特性が活き、文化を尊重したデザインが創れるからです。そうしたアフリカならではの魅力を大事にしながら、日本のマーケットで求められる要素をかけ合わせることで、オリジナリティ溢れるデザインが生まれるのです。
今回、『a・un』で取り扱っていただくバスケットバッグも、『CLOUDY』ならではの個性をたくさん発見していただけると思います。僕がアフリカで出会った素晴らしいものの1つに、アフリカ各地に根付くテキスタイル、アフリカンファブリックがあります。その鮮やかな色彩感覚は、まねのできない宝です。バスケットバッグにあしらったフリルも、そうしたアフリカンファブリックを使っています。しかも、他の縫製工場から出た残布を有効利用し、新たな価値を生み出せるようにアップサイクルしたものです。
本体であるバスケットも、僕がアフリカの人や文化、生活に触れていくうちに出逢った特別なものです。ガーナの北部・ボルガタンガという地域で作られている特産品で、初めて見たときにその素晴らしさに心奪われました。
そもそもは、ガーナの約8割を占める農業従事者が、農閑期などを利用して手作りし、収入を得ていたという歴史ある産業品です。それゆえに製品管理もおおらかで、デザインもトラディショナルにより過ぎているなと感じました。なので、現地のスタッフと話し合いながら様々な点をブラッシュアップしていった思い入れの強いバッグなんです」
「まだまだこのバッグの魅力は尽きません。いくらでも語れますよ」と笑顔を見せた銅冶さん。いかに現地のスタッフと良好な関係を築いているかが透けて見えるようです。
銅冶さん「このバスケットバッグに使われているのは、ガーナの水辺に生えるギニアグラスという、きめ細やかで丈夫な天然素材です。天然素材のバッグを久しぶりに使おうとして引っ張り出したら、変形していた…という経験はありませんか。このギニアグラスのバッグは、霧吹きで湿らせてから形を整えると元の状態に戻せます。1シーズンで使い捨てるのではなく、繰り返し使えるためサステナブルですし、好きなものを長く愛用できると好評です。
また、このバッグを編むには高い技術が必要で、熟練の職人が1つ完成させるまでには約10日もかかります。そうした技術が身につくよう、丁寧に伴奏しながら2年かけて一人前に育てるのも僕らの役目なのです」
“かわいい”を起点に次へのアクションにつながる
製品一つひとつに、溢れる想いや豊かなストーリーがありながらも「そうしたことは、ふとした瞬間にたまたま気づいてもらえればいい」と銅冶さんは言います。
「僕らとアフリカとの関わりを何も知らずに、たまたまかわいかったから『CLOUDY』の製品を手に取ってくださったお客様から『私も良いことに携われた気がする』『第一歩が踏み出せた気持ちになれてうれしい』といった声をたくさんいただきます。さらには、『もう一歩踏み込んで挑戦してみたい』とか、『日常の中でも変化が生まれた』といった、次なるアクションにつながることもあるようです。
また、製品を手に取ってくださったご縁から、『わが社で講演してくれませんか』とか『子供たちの授業に来てください』など、思いがけないお話をいただくこともあります。そした広がりを実感するたびに、遠いアフリカの問題ではなく、“自分ごと”として考えてもらえるようになったのかなと思えて、自分たちの自信につながります。いろんな方の笑顔やありがとうの気持ちがつながったとき、これまでやってきたことは意味があるんだと思えて本当に嬉しくなりますね」