連載vol.4 サステナブルを理由に美味しいを諦めていませんか?
2024.10.16
先日、居酒屋のチェーン店でソイミートを使ったメニューを見かけました。SDGsの一環として作られた商品のようです。こんなところにも浸透するようになったんだなぁと、ちょっと感動しました。
ソイミートの挽肉と野菜の炒め物みたいな料理で、食べてみると悪くはないんです。居酒屋のメニューですから、味が濃くて、お酒にも合うように作られていました。値段も安く、ちょっと食べてみようかな?と思わせることにも成功していそうです。
ただ、やっぱり挽肉をソイミートに変えただけ、ではあるんですね。動物性の挽肉の方がいいなって思ってしまいます。たぶん、リピートされる商品ではありません。
また、違った角度で見ると、ちょっと配慮が足りないと思うポイントがありました。このメニューは、タレっぽい味付けなんですね。タレの場合、魚醤や蜂蜜など動物性のものが入ってる可能性がありますが、この辺りの使用・不使用の表記がありませんでした。ヴィーガンフレンドリーではありません。
正直、もったいない。SDGsの波にのっているだけのポーズ企業って思われてしまう可能性もあります。いやいや、社会にはこうやって少しずつ浸透していくんだ、という意見もありそうですが、やるならしっかりとお客様のハートをぶっ刺しに行くべきじゃないでしょうか。
ただ、なんだかんだ言って「サステナブルな食品が売れない」という現実もあると思います。フードロスを解決する商品って言っても興味持ってくれるのは最初だけなんだよね、とか、やっぱり肉なんだよね、とかとか、そういう話は実際耳にします。
ではどうしたらいいでしょう?それを考えるためにサステナブルと食品を掘り下げてみようと思います。
サステナブルと美味しいの順番
*季節に合わせておすすめがある「fruits and season(フルーツ・アンド・シーズン)」のフルーツサンド
サステナブルとは大きな括りで訳すと「持続可能な社会」です。環境負荷をかけず、未来まで見据えた循環型の社会を目指す、とそんな意味合いです。
SDGsと同義で使われがちですが、SDGsは “ Sustainable Development Goals ”の略で、サステナブルな社会を作るための具体的な17のゴール、169のターゲットを指します。
つまり目標と検証みたいなイメージの方が正しいです。採択されたのが2015年なので、気づけば長いこと経っていました。
僕は目標設定は大事だと思うんですが、感性みたいなものを置き去りしてしまうと、サステナブルと謳っているのに持続性が無くなっちゃうんじゃないかなと懸念しています。実際に持続的にSDGsに取り組めなくなった企業も多いんじゃないでしょうか。
ここでいう感性とは食品で言えば「美味いのか?」です。味はイマイチだけど、地球のためになるなら、という消費は最初の一回だけで、その後は続かないと思います。
そうじゃなくて、「美味しい」が一番で、その次に「地球のために」が来る。この順番を忘れちゃいけません。お客様からすると、商品を「美味しい」から知ったけど、結果的に「地球のために」だったんだね、というのが理想です。
例えばフルーツサンド。いちご、ぶどう、マンゴーなど、様々な果物を大きめにカットして生クリームと一緒に、しっとりした耳なし食パンでサンドするスイーツです。今も人気がありますが、特にコロナ禍の頃に一世風靡しました。テイクアウトしやすいとか、そういうニーズとも合ったのだと思います。
有象無象のフルーツサンドが出現したコロナ禍で、際立って美味しかったのが東京・恵比寿にある「fruits and season(フルーツ・アンド・シーズン)」というお店です。
こちらの特色は何かというとヴィーガンフルーツサンド専門店だったということ。現在はその他のメニューもあり、イートインのカフェ形態になっていますが、ヴィーガン専門店というスタイルは変わっていません。
何がすごいかというと、サステナブルから入っていないんですね。牛乳や卵を使わないクリームの方がフルーツに合うと判断して商品を開発したんです。つまり「美味しい」が先なのです。
で、これがとってもいい。豆乳パンが淡く塩味なので、甜菜糖の健康的な甘さが、とても引き立つ。一口目で感じる心地よい軽さに感動します。
実際、低カロリーだそう。フルーツサンドなのに軽いというのは衝撃的で、僕は普通のフルーツサンドに戻れなくなりました。もはや、これじゃないと嫌なのです。お土産にも喜ばれるし、本当に素晴らしい商品です。
サステナブルを呼び水にしない
*沢山の種類があるZENBシリーズ。この他にパン、カレー、ペースト、スムージー、おかしまである。
他にもZENBというブランドを紹介したいです。インターネット通販の展開がメインなので、知っている人も多いかもしれません。パスタのような「ZENB noodle(ゼンブヌードル)」が有名ですね。原料は100%黄えんどう豆で、小麦を使わない完全なグルテンフリーとなっています。
僕もサブスクで定期購入していますが本当に満足しています。とても美味しい。豆ですから茹で汁が出汁として素晴らしいので捨てる気になれず、違う料理に使ったりしています。この商品に出会ってからパスタの乾麺は買わなくなりました。最近ではフレンチやイノベーティブな高級レストランでも使われるようになっています。
ZENBは、他にもパン、カレー、ラーメン、スープ、パスタソース、ペースト、おかし、スムージーなどなど沢山の商品がどんどん開発されているのですが、どれもグルテンフリーかつ、動物性原料不使用で添加物も使われていません。
*タケナカリーのおすすめは、ZENBで作るパッタイ。具材はニラ、もやし、ネギ、大葉、みょうが。
また、原料となる野菜や果物は、種・芯・皮まで可能な限り廃棄せずに使われています。これはブランド名の由来となるコンセプト「植物を可能な限り丸ごとぜんぶいただく」をまさに体現しているのですが、フードロスだけでなく、それ以上に植物をまるごと使うことから生まれる濃縮された美味しさを追求しているのです。
つまり、ZENBも圧倒的に「美味しい」が前提なんですね。さらに言うと、「美味しい」がちゃんと購入理由になるようにと、ヴィーガン対応やサステナブルのような謳い文句は使わないようにされています。※動物性原料不使用という表記は書かれています。
これって弊社はSDGsに取り組んでますよぉ!買ってねー!みたいなポーズとは真逆の姿勢です。ZENBの中ではサステナブルが、もう標準なんですね。
これからは食に関する未来って、どう考えても環境負荷と併走することになります。これはきっと解決するようなことではないので、問題でなく、課題です。地道にどうしたら環境負荷を減らしていけるかという課題に取り組んでいく、それを当たり前にする、そういう姿勢が求められています。
そのためには、スタートアップの事業展開のように量より質ではなく、量から生まれる質です。美味しいに向かって、トライ&エラーを繰り返す、その有象無象の果てに、素晴らしきサステナブル商品が残るのだと思っています。
タケナカリー 連載「エシカルと食の、揺れ。」
PROFILE
タケナカリー
CHANCE THE CURRY代表。カレーやスパイスに関わる執筆、 レシピ開発、商品企画、イベントプロデュースなどを手がける。 Podcast「カレー三兄弟のもぐもぐ自由研究」配信中。著書にSFカレーファンタジー「少し不思議なカレーの物語」(鴎来堂)がある。好きな概念はカレー。
https://www.instagram.com/takenacurry