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廃棄物業者の新たなビジネス領域を創造したナカダイ

廃棄物業者の新たなビジネス領域を創造したナカダイ

大きなマグネットクレーンが粛々と作業を進め、フォークリフトが行き交う群馬県前橋市の産業廃棄物中間処理・総合リサイクル業「ナカダイ」の場内。99%のリサイクル率を誇る同社にとって、ここは単なる解体現場ではなく、企業の出すごみを金属やプラスチックなど素材別に分け、新たな流通経路に送り出す生産工場なのです。「捨てる」と「使う」をクリエイティブにつなぐ産廃業者の新たなビジネス領域を開拓してきたナカダイホールディングス代表取締役の中台澄之さんにお話をうかがいました。


ごみを集める仕事からの脱却


集めた鉄くずをプレスした鉄千地(せんち)。廃棄物はある程度まとまった量で取引することが重要で、これが毎月数百tレベルで生産されるそう

—廃棄物業者のイメージを一新させた今のビジネスを始めたきっかけ(あ・うんの「あ」)はどんなことだったのですか?

中台さん 「僕がこの業界に入ったのは1999年。父の代は鉄のスクラップ業で、廃棄物はやっていませんでした。事業を拡大するために廃棄物を取り始めたのですが、当時、環境経営の国際規格ISO14001を各社が取得していた頃で、時代の後押しもあって売り上げは一気に数億レベルに上がりました。よっしゃ!となったのですが、場内はごみの山。ふと、ごみ集めをしているなと思ったんです。工程全般を見直したというお客さんから『ごみが削減できました!』と報告を受けても内心喜べない。みんな廃棄物を減らしたいと思っているのに我々の業界だけ廃棄物が増えてほしいと思っている。そのギャップに耐えられなくなったのが2006年くらい。ごみを減らして利益が上がるようなビジネスモデルを作らなければいけないと思いました」

—それが、廃棄物の環境負荷やコスト削減を目指す企業と取り組んできた「リマーケティングビジネス」(コンサル業)ですね。


中台さん(前橋のモノ:ファクトリーで)

中台さん 「新規営業にかける時間を社員の知見を上げることに当て、お問い合わせをいただいたらどんなご相談にもお答えできるよう、さまざまな業界の廃棄物とその流通経路を徹底的に勉強しました。しんどかったですが、この頃の努力があったから、今の仕事ができています。廃棄の世界がどうなっているか想像がつかない人も多いので、そこをいかにわかりやすく伝えるかを意識して積極的にメディアにも出ました。気をつけたのは一般の廃棄物業者が行うごみの焼却や埋め立ても大切な仕事なので、彼らとの差別化ではなく、リマーケティングビジネスなどの新しい言い方で、自分たちがやろうとしていることは、全く別のビジネススキームだと伝えるようにしました」


「腹落ちするには時間がかかる」


モノ:ファクトリーにはナカダイの廃棄物コレクションが展示されている。LED式に交換される前の旧年式信号機など懐かしいモノも。モノから捨てられた時代背景や技術革新の軌跡が見えてくる

—そして、2011年には分別した廃棄物をもっと使っていこうと、それらを“素材”として展示販売するモノ:ファクトリーをオープン。コンサル業務は同名法人に分社化しました。2015年が再び転機に?

中台さん 「2015年辺りからSDGsが出てきてパリ協定が採択されると、かなり風向きが変わりました。それまではパフォーマンスで取り組む企業も多いと感じていましたが、取り組んでないとちょっとまずいなという雰囲気が出てきた。ISO14001の時よりはるかに強い流れでした。その後コロナになり、当時の菅義偉首相が2050年までのカーボンニュートラルを宣言し、2030年に温室効果ガスを2013年比で46%削減することを目指すと言ったインパクトは、やっぱり大きかったですね」

—時代が追いついてきた?

中台さん 「時代が追いついてきたというとおこがましいですが、僕にとってあ・うんの『うん』(納得)はまさにそこで、待つこと、寄り添うことが大事だと。モノ:ファクトリーも、なんだ、何にも起きないじゃないかとやめていたら今はない。

日本は資源が少ないし、廃棄物を減らして資源として再使用するのは理屈として絶対正しいと思って継続していたら、たまたま時代とうまくマッチした。運が良かったとも思っています。環境負荷を減らす行動は面倒が伴いますし、腹落ちするまでには時間がかかるんです」


火力発電所跡地を資源循環の拠点に


油汚れのついた紙などマテリアルリサイクルができないごみは紙、畳、プラスチックと混ぜ、コルク型のRPF と呼ばれる固形燃料を作る。石炭やコークス並みの熱量を持ち、経済性も高いそうだ

—昨年7月に九州電力と新会社「サーキュラーパーク九州」を共同設立しました。鹿児島の旧・川内火力発電所跡地を資源循環の拠点にする構想ですね。

中台さん 「火力発電所跡地のリノベーションで世界的に有名なのはイギリスの美術館、テート・モダンなどがありますけど、今回取り組むのは公共事業ではなく、資源循環の拠点として地域に新しい産業と雇用を生み出すビジネスです。まずはリソーシング(企業や地域の産業廃棄物を再資源化する)事業を4月に稼働します。資源循環に本気で取り組む企業と連携して、課題を共有し、解決していきます」

—企業の本気に寄り添っていくナカダイさんのチャレンジは、国内のサーキュラーエコノミー実現に向けて大きな示唆を与えてくれそうです。

中台さん 「今、僕らは群馬と九州でやっていますが、他のエリアで取り組みたい同業者が出てきたら知見を渡していきたい。全国各地で同様のチャレンジが増えると、廃棄物が資源に生まれ変わる流れができて社会全体の環境負荷が少なくなる。ここも僕が実感しているあ・うんの『うん』です。これまで培った知見のシェアを進めていきたい」

ナカダイ
http://www.nakadai.co.jp

サーキュラーパーク九州
https://www.cpq.co.jp

※本記事は一般社団法人シンク・ジ・アースが運営する、地球の未来を考え、行動するためのウェブマガジン「Think」と連携しています。

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