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連載vol.2 日の丸弁当、冷やしたぬき、プラントベースはどっち?

連載vol.2 日の丸弁当、冷やしたぬき、プラントベースはどっち?

今年は梅雨入りが遅く、蒸し暑い日が続いています。僕はカレーの人で「夏こそカレー!」のバイブスは持っているのですが、これほどジメジメとした日ばかりだと不思議と日本らしいものが食べたくなるものですね。

例えば、梅干し。傷みにくい伝統食品です。

発酵食品と思われがちですが、酵母や発酵菌が繁殖できない塩分濃度12%以上で作られるので発酵食品ではありません。分類としては漬物になります。なんと100年後も食べられるとか。スーパー保存食ですね。成分としてはクエン酸とリンゴ酸を含み、食欲増進と疲労回復が期待できます。

日の丸弁当はプラントベース?


「米屋(メシヤ)」新宿伊勢丹店のみで販売する日の丸弁当。お値段841円。

梅干しは日の丸弁当の唯一のおかずとなるくらいですから、最も日本らしい食品と言えるかもしれません。伊勢丹 新宿店「米屋(メシヤ)」には日本一値段が高いと言われる日の丸弁当があります。お値段は841円。

お米は「あきたこまち」の一等米と、もち米をブレンドしているそう。飽きのこない甘みが口いっぱいに広がります。主役となる梅干しは、小田原「完熟十郎梅」というブランド梅で、ご飯にあう塩分濃度18%という仕上がり。梅の香りがびっくりするほど高く、やわらかさも丁度いい。究極にシンプルなのにとっても美味しいです。

よく考えると、ごはんと梅干しだけって猛烈にエシカルですね。ミニマルなデザインで実に日本らしいプラントベース(ゆるい菜食主義)です。

戦時中は日本軍が質素倹約のために奨励したお弁当ですが、時代が変わると見方も変わります。

でも、さすがにこれが続いてしまうのは栄養不足です。では、栄養価がそれなりにあって、酷暑でも食べやすいものとは何か?

僕はここで、冷やしたぬきそばを推したいと思います。

冷やしたぬきそばは、プラントベース?


夏はやっぱり冷やしたぬきそば。大根おろしが入ってると完璧。

夏になるとカレーの次に食べたくなるのはこれ、ってくらい好きです。

定番具材は天かす、ねぎ、きゅうり、海苔あたりでしょうか。ここからお店によって、紅生姜、かまぼこ、わかめ、トマト、などなどが登場する場合があります。岐阜市ではソウルフードとして君臨しているようで、そこでは、天かすだけでなく、おあげも入るようです。

僕は定番具材に加えて、大根おろし少々に、ミョウガ、大葉、わさびを馬鹿みたいに入れて食べるのが好きです。サクサクした天かすが、じっとりと蕎麦つゆを吸って膨張していく。その様を愛でながらいただくのが至極の幸せなのです。

で、蕎麦をすすりながら気づきました。具材は野菜だけだし、これはプラントベースだな、と。

しかし、よくよく考えたらプラントベースとは言えないんですね。蕎麦つゆに、出汁を使っているからです。動物性食材の鰹節から出汁をとるから、プラントベースとは言えない。


蕎麦つゆの鰹節は動物性素材。

んー、理屈はわかるが、なんだか釈然としません。だって、プラントベースとは “完全”がつかない“ゆるい”菜食主義でした。週に一回の菜食であってもプラントベースなのです。特に昨今は、環境負荷を減らすためにそういった意識の人が多くなっています。前回の連載「vol1. ヴィーガンとプラントベースの境界線」も書きましたが僕もその一人です。

鰹節が入るだけで、そんなに環境に影響が出るのでしょうか?

ちょっと調べてみました。

【生鰹 → 鰹節 → 出汁までの重量変化】

生鰹 重量は約4kg
※3年成長の平均重量。成長年数に連れて大きくなり10kg超えるものも!



一匹の生鰹からとれる鰹節は加工後、約800g
※1節 約200g×4節=約800g。一匹からは4節とれる。 



蕎麦つゆに使われる出汁の鰹節の使用料は1リットルに対して約60g前後。なので出汁の濃度は6%になる。
※地域やレシピによって違いますが、あくまで平均。



冷やしたぬきそばは、ざるそば用のつゆを使用する、もしくは近づけることが多いので、構成比率は「かえし1:出汁3」とする。つまり、ざるそばつゆの3/4が出汁。
※「かえし」とは一般的に醤油、砂糖、みりんを合わせたもの。



1人前のそばつゆ量は150ml~200ml なので、間をとって175mlとすると、

ざるそばつゆ175ml × 出汁3/4 = 約131mlが出汁。

出汁濃度は6%だったので1人前ざるそばつゆの出汁量131ml × 6%= 1人前の鰹節量 7.86g(=約8g)

冷やしたぬきそばに使われる1人前の鰹節量は約8g程度とは言えそう。



つまり、生鰹一匹からとれる鰹節が約800gなので1人前の鰹節量が約8gなので、約100杯分の冷やしたぬきそばの出汁をとることができそう。
※あくまで予想値。

 

鰹のタタキは1人前が約100gが目安となっています。生鰹1匹4kgを刺し身に解体すると約2kgになるので、タタキなら約20人前ですが、冷やしたぬきそばなら生鰹1匹から約100杯の出汁を作れます。これって立派に環境負荷を減らしているんじゃないでしょうか。

プラントベースって味噌汁も飲めない。


味噌汁の具材って植物性素材だけの方が多い。

肉を食べないのはわかりますが、出汁を使った食品を「プラントベースじゃないから食べない」というのは、とてももったいない気がしました。

だって、同じロジックで、味噌汁も、おでんも、きつねうどんも、天ぷらの天つゆでさえプラントベースじゃないから食べられないのです。出汁が野菜を美味しくしている、とまで思うのですが、この違和感は日本人だからでしょうか?

もしかすると、プラントベースとはまた違った名称・ジャンルが必要とされているのかもしれません。「ダシ・ベジタリアン」みたいな。とにかく、動物性の「出汁」のおかげで肉を食べない選択肢が増える可能性があると思いました。

ただ、違うレイヤーで鰹節の生産量の問題はこれから出てくるかもしれません。鰹の漁獲量は世界規模で見ると熱帯海域を中心に増えているそうですが、回遊前に獲られてしまうので日本の漁獲量は減っています。

ちなみに、錦糸卵、カニカマ、ハムなど、たまにほとんど冷やし中華では?という冷やしたぬきを見ることがあります。そんな時は本当に気の毒な気持ちになります。そんなに着飾らなくてもいいのに。ありのままの君がいい、そう思います。

タケナカリー 連載「エシカルと食の、揺れ。」

PROFILE

タケナカリー

CHANCE THE CURRY代表。カレーやスパイスに関わる執筆、 レシピ開発、商品企画、イベントプロデュースなどを手がける。 Podcast「カレー三兄弟のもぐもぐ自由研究」配信中。著書にSFカレーファンタジー「少し不思議なカレーの物語」(鴎来堂)がある。好きな概念はカレー。

https://www.instagram.com/takenacurry

都築千佳

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